低用量ピルは少ない量の卵胞ホルモン (エストロジェン) と黄体ホルモンの配合剤です。避妊用に使用されるピルと基本的には一緒です。ただ、自費で使用される避妊用のピルと異なり、治療のために保険診療で使われるピルを日本ではLEPと呼んでいます。
LEPは月経困難症や過多月経に対して非常に高い効果が期待できる薬剤です。保険での適応はありませんが、薬効的には子宮内膜症が退縮する可能性があります。しかし、ホルモン剤ということで警戒したり不安を感じる方が少なくありません。そこで、LEPの功罪についてご紹介したいと思います。

●何歳から使えますか。

はっきり何歳から・・・という基準はありませんが、月経が始まって少し時間がたっていれば使用できる可能性が高いと思います。できれば身長が伸び始める前ではないほうが良いので、ある程度の身長の発育がみられていれば可能と考えます。一般論として概ね15歳くらいからは問題なく使えることが多いようです。

●がんになりやすくなるってホントですか?

がんについて心配される方が多いのですが、実際にはLEPを服用することで卵巣がん・子宮体がん・大腸がんが減ることが分かっています。特に卵巣がんは早期発見が難しいがんの一つですので、それが減らせるのであれば大きな魅力です。乳がんに関しては少し減るかもしれないという論文とわずかに増えるかもしれないという論文がありますが、ほとんど変わらないと考えてよいでしょう。子宮頸がんについては5年以上服用するとわずかに増えるというデータがあります。子宮頸がんの原因のほとんどはヒト・パピローマ・ウイルス (HPV) ですので、ホルモンが関与するわけではありません。ほとんどのHPVは感染しても免疫の力で排除されるのですが、長期間LEPを服用した場合に、この免疫の力に少し影響するのではないかと考えられています。もっともHPVに感染しさえしなければ関係のない話なのですが……このようにむしろLEP服用によって減るがんの方が多いのです。

●不妊症になってしまうことはありませんか?

LEPは避妊用のピルと同じなので、きちんと服用していると妊娠する可能性はほとんどありません。ですが、妊娠を希望するようになった場合には服用を中止することによってすぐに妊娠可能にラなります。LEPを服用していないカップルが妊娠を希望して1年間に妊娠する確率は80%程度ですが、LEPを服用していた女性が服用を中止した後の1年間で妊娠する確率は同程度であることが分かっています。

●ホルモン剤を使うことで体の変調をきたすことはありませんか。

ごく少数ですが、黄体ホルモンによって吐き気が起こることがあります。ただし、その場合でも服用を継続していると1~2ヵ月程度で吐き気は軽くなるようです。同様にわずかではありますが、不正出血や頭痛、乳房痛、倦怠感などが起こることがあります。いずれも次第に軽くなることが多い症状です。ご自身の生理痛や過多月経による症状と比べて服用するかどうかを決定すればよいと思います。

●最も心配な副作用は何ですか。

血栓塞栓症という病気です。主に下肢の静脈に血栓ができ、それが血流にのって他の臓器の血管に詰まってしまう (塞栓) のが実態です。肺の血管に詰まってしまう肺塞栓症が塞栓の起こりやすい部位といえますが、起こすと命を落とす可能性のある病気です。
血栓症のリスクは何もリスクのない女性 (肥満でなく喫煙をしていない、家族性に血が固まりやすい因子を持っていない女性) のリスクを1とすると、LEPを服用することでリスクは3倍程度に増加します。ただ、喫煙をしている人ではリスクは4倍、妊娠すると5~8倍、産褥期には20倍にも増加するのです。これ以外にも肥満やキャビン・アテンダントなどではリスクが上昇します。
LEPを服用した時のリスクは開始した直後が最も高く、3か月を経過するとリスクは下がってきます。ただし0にはなりません。若い女性 (10~20歳代) の方がリスクは低くなります。
この理由から、40歳を超えてから初めての服用をすることは勧められません。また、40歳未満で服用を開始した場合は50歳になる前に中止することが良いとされています。

●血栓塞栓症の予防法はありますか。

100%予防できる方法はありません。しかし、脱水にならないように水分を多めにとったり、体重を増やさないことは少しだけ役に立つかもしれません。もちろん喫煙はご法度です。
ただ、血栓が下肢の静脈にできただけでは命にかかわらないので、早く見つけて血栓を溶かしてしまうのがお勧めできる方法といえます。下肢 (膝の裏) が痛い、赤くなる、むくむ、しびれるなどの症状が出た場合には様子を見ずに早く受診して検査をすることが大切です。D-ダイマーという血液検査をして陰性であれば血栓はないと考えてよいのです。妖精の場合は超音波検査や造影CTの検査などで血栓や塞栓があるかどうかを確認します。血栓が確認できた場合にはLEPを中止して血栓を溶かす治療を開始します (主に循環器科が担当します)。